軽貨物、廃業すべきか留まるか
6月30日を持ちまして15年以上続けてまいりました軽貨物運送業を自主廃業いたしました。
「廃業」という言葉の響きはあまりよいものではありませんが、事業に切羽詰まって廃業したわけではなく様々な要因が一気に集中し絡み合ったことが大きかったと思います。
まさに人生における諸行無常の響きを痛感させられた次第です。
追い込まれて職を放棄するような廃業で生活が破綻するようなことにならぬよう、自主的な廃業というものを前もってシミュレーションしておくのも不確実性の時代においては必要なのではないでしょうか?
今回は私のケースも例にしつつ「自主的な廃業」について話をしてみたいと思います。
軽貨物ドライバーが廃業することについて発信しているものはあまりないように思うので、何かの参考になれば幸いです。
軽貨物運送業 廃業を考える時
- 体力的なもの
軽貨物ドライバーの半数以上は中高年者。40代50代がコアな構成だとすると、個人差はあるがそろそろ体力的な衰えを感じ始める時。恐らく引退・廃業する理由には体力的なものもあるでしょう。
配達スキルは向上すれど確実に加齢・体力低下していくドライバーは、収入以上に毎日が辛くなっていく。
向上したスキルがノルマに変わっていくAmazonのような仕事では、どこかで配達能力と荷主期待値の均衡点が崩れ垢バン食らって他の仕事を探さなくてはならなくなるドライバーも多い。
体力や配達能力が周囲の期待値に届かなくなると、廃業も選択肢となる。
私の場合も60歳手前から荷物を持っての階段の昇降が辛く感じ、どこかで辞め時を意識するようになっていた。 - 健康上の問題
これも個人差が大きく、ずっと元気な人もいればすぐに腰・膝・関節を痛めたりして仕事を続けられなくなるケースもある。これは痛めて初めて事の重大さに気付くのですが。
ドライバー職のように体力が資本の仕事だと、持病を抱えてしまうと継続は難しくなる。トラックドライバーなどは腰痛持ちが当たり前だが他に選択肢を持たないため無理している人が多い。
彼らの多くが個人事業主ではなくサラリーマンドライバーということで、「廃業」という形とは違って「退職」という身の引き方になるのだが・・・
やはり一般的な職業と違って持病を抱えて続けられる仕事ではないし、中高年以上の年齢構成が主となれば尚更無理すれば老後は障害者ということにもなりかねない。
私の場合は毎朝のように軽いめまいを感じるようになり、運転仕事に不安を覚えたというのが「廃業」を意識した大きな要因だったと思います。 - 迫る事故リスク
毎日のようにメディアが報じる高齢者による運転事故。そしてトラックによる交差点での巻き込み事故も相変わらず。
運転に自信があっても事故のリスクがなくなるわけではありません。ましてや忍び寄る加齢による能力の低下は自分が思っている以上に危ういもの。
一発人身事故をやらかせば最低でも免停。
人身事故起こして仕事を継続させてくれる荷主や会社はありません。名前もメディアで公開されてしまうし転職も厳しいでしょう。
宅配やフードデリバリーのような数を競うような仕事では、社会のルールより自分の都合優先になりがちで小さなトラブルはあちこちで発生しており、いつ「チャリカスママ」みたいに動画を晒されるかわかったもんじゃない。
私も配達中の歩道上でウーバーの自転車ドライバーにぶつかられたことがある。その気になればその場で相手を潰すこともできた。それすなわち逆もありえるということ。
例えば雨の日の狭い道で歩行者の傘に車が接触しただけで、警察沙汰になりうる。
その後がどういう展開になるか・・・わかりますよね? - 資金繰りの問題
軽貨物運送業で見落としがちなのが「車両がいかに金食い虫であるか」ということ。
開業は簡単だが収入を得るためのランニングコストがバカにならない。
保険代や駐車場代、オイル交換やタイヤ交換、高い燃料費に車検等、自動車税やインボイスも。
月に均せば軽く10万円超の支出を要する。お金稼ぐのにお金を払うって、怪しいビジネスみたいズラ。
そして一番心が折れるのが車両故障。安いからといって適当に中古車買って始めるとハズレを引けばエンジン系のトラブルなら数十万円の出費になる。
軽貨物にありがちな電柱やポールにぶつけたハッチの凹みも修復すると5万以上はかかるので、みっともないけど放置している人、多いでしょ?
商売道具である車両が大きな故障したら、貴方は数十万円払ってでも修理して事業を続けますか?
車が使えない修理中、仕事はどうしますか?
車は消耗品。負担がかかる配送車両で一度も故障・不具合なく済むわけがない。一回の修理で廃業に追い込まれる人もいるのです。道路交通法の煩わしさ
交通ルールの縛りは相当なストレス。
例えばライトの玉切れはドライバー自身は気付き辛い。玉切れしたまま走っていて運悪く警察車両に見つかれば罰則だし「気付かなかった」では済まされない。
車両整備不良での公道走行扱いによるペナルティーは金額より精神的ダメージが大きい。
駐禁も誰もが経験しうる罰則。タワマンが増え駐禁の危険性も向上、しかも1日に複数回切符切られることも。
また、ありがちなのが「横断歩道等における歩行者等の優先」に関する罰則。
これ警察の美味しい取り締まりの一つ。場所によっては入れ食い状態。これで減点2はダメージ大きい。
その他黒ナンバーがやらかしそうなルール違反がいくつもある。
減点5までいっちゃった人って、そのリーチがかかった状態で配送仕事を続けるのだろうか?
減点と罰金繰り返したら、さすがにこの仕事のバカバカしさに気付いて廃業を決断する? - 税・インボイスの落とし穴
私が廃業に繋がった理由の一つに「インボイス」がある。
それまで本業としていた商業貨物便の運送会社が「インボイス」を求めてきた。
体力・健康の問題で軽貨物を引退する時期を考え始めていたタイミングでの「インボイス」は辞める背中を押したのは間違いない。
「インボイスを要求するなら辞めます」と言えずに悶々としている軽ドライバーは多いでしょう。
準備と決断力は必要だなと思います。
相手に依存しているといつまでも足元見られて長時間低賃金労働から抜け出せなくなる。
ただでさえ経費のウエイトが大きいのにそこに更に10%の税金を取られる働き方なんて、やってられんわな。
数年後にインボイスの経過措置が終わる時に、税の恐ろしさに気付くのでは遅すぎる。 - 運送業の将来への不安
2024年問題のドタバタでもわかるように未来への問題意識の薄い人間がこの業界には多すぎる。
慌てて出してくる対策も頓珍漢なものばかりで、果たしてこの業界この仕事に身を委ねていて自分は幸せになれるのだろうか?という気分にさせられる。
また燃料費高騰が収束する気配も無いし、国も何とかしようという気概が感じられない。
物凄い数の倒産件数が報じられている運送の仕事に危機感が募らない方がおかしい。
人手不足が加速するのは自業自得なのだろうが、残った人間が利を得ることができるのだろうか?
肉体を酷使して相手の掌でいいように転がされて得た低単価の積み重ねで自分は幸せになれるだろうか?
個人的な廃業感
働くことで収入を得る人生も最終局面を迎えようとしている。
第4コーナーを回って最後の直線をどう走り切るのか?今の仕事で走り切れるのか?
60歳過ぎても老体にムチ打つしか収入手段はないのか?それで人生終えていくのか?
最後ぐらいは年金の力を借りながら、何とかゴールの位置を少しでも後ろに持っていきたい。
しかしゴールまでの距離感がわかっていないと、廃業のタイミングもおかしくなる。
不安要素が増えてきた仕事をズルズル引きずらず、高齢化に付随するリスクと決別し次のステージに向かうのが自主廃業。
軽ドライバーを20年30年と続けていくなら、その間に車を何回買い替えなければいけないのか考えてる?
「体力」「健康」「売上に対する支出」「リスク」「将来性」
これが「廃業」すべきかどうかのチェックポイントになると思います。
社会全体の未来予測、運送業界の未来予測、自分自身の未来予測、成り行き任せでは逃げ遅れる。
「廃業」は、次のスタート地点であり、動き出すタイミングのこと。
決して終着点ではないと思うのです。