個人事業主、廃業への道

個人事業主は開業するのは簡単だが、どう終わるかが難しい

ヤマト運輸は迷走し日本郵便も相変わらずヤバい。
そして今度はフジテレビが消滅の危機を迎えている。
知名度が高く安泰と思われていた大企業に次々と問題が発覚し、その対応の悪さから事態はますます混迷を深めている。
もはや大企業に勤めることが将来を約束されているわけではないことを、大企業自らが証明しているような情けない日本社会になりつつある。

グローバルな競争にさらされ目先の売上数字ばかりを追うあまり、足元の倫理規定が疎かになるという同じパターンが目立つ。
現場が置き去りにされ、上層部の暴走が「正義」みたいな風潮を誰も止められないのか?

今回はそんな社会の犠牲者にもなりえる末端労働者の悲哀をストーリー仕立てで作ってみた。
私の経験に基づく部分もあり、また多くの個人事業主に当てはまる部分もあると思うので、参考になれば幸いです。
(この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。)

終わり方もいろいろあるが、追い詰められての退場はダメ!

個人事業主、廃業への道

50代の軽貨物ドライバーが廃業を決意した日

55歳になった浩一は、運転席から降りると腰に手を当てて深呼吸をした。
今日も一日、軽の1BOXの荷台に積まれた荷物の山をあちこちへと運んだ。
かつては、この仕事にやりがいを感じていた。
自分の手で物を運び、多くの人の生活を支えているという実感が彼を満たしていたからだ。

しかしここ数年、そのやりがいは薄れつつあった。
運送業の人手不足は深刻で、浩一の仕事量は年々増え続けていた。
かつては余裕を持ってこなせていた荷量も、体力の衰えを自覚し始めた今では加えて時間との戦いも厳しい。
指定時間に少しでも遅れると客からのクレームや問い合わせで次の仕事に支障が出てしまい、荷主からのプレッシャーもあって常に焦りを感じていた。

「もうこんな仕事・働き方は無理だ…」

浩一は、ハンドルを握りながら呟いた。
荷量の増加に伴う労働時間の増加の一方で、変わらぬ配達単価とガソリン代等の物価高騰の波。
コスパ・ダイパの悪化は年々顕著になっている。

開業する前の軽貨物ドライバーの仕事は、一見自由に見えた。
しかし、その自由の裏には多くのリスクと負担が隠されていた。
浩一は個人事業主として、全ての経費を自己負担しなければならなかった。
ガソリン代がこれほど上昇するなど考えてもいなかったし、自家用車とは比べ物にならないほど車両のメンテナンスがかかり維持費も馬鹿にならない。

「この仕事、コスパ悪すぎだよな…」

浩一はガソリンスタンドでレシートを見ながらため息をついた。
以前はある程度自由に使えるお金もあったが、最近は収入に見合わないような支出も増え、ほとんど貯蓄ができなくなっていた。

なぜインボイスを選択した?増税に苦労してどうする?

燃料費高騰とインボイス制度

ここ最近の燃料費の高騰は、浩一の経営をさらに追い詰めた。
国際情勢の不安定化や為替の変動などでガソリン価格がこうも乱高下するとは考えもしなかった。
ロシアとウクライナの問題は想定外もいいところだが、政府の燃料費補助金の打ち切りとそれに伴うガソリン代の値上がりがこんなに影響が大きいとは・・・

「インボイス制度も、正直きついな」

浩一は今さらながら、妻にそう話した。
深く考えない性格の浩一は、インボイスについてもあっさりと受け入れていた。
経過措置の負担なら大したことないと軽く考えていた。

ところがインボイス制度の導入により事務作業が増え、経理の知識も必要になった。
もともと事務作業が得意ではなかった浩一にとって、この負担は想像以上に大きかった。
やがて経過措置が終わり10%の税負担になることのバカバカしさを、ようやく理解し始めたのだった。

もう動けない!仕事と命とどちらが大切か早く決めないと!

社会保険と体力の壁

浩一は子どもが社会人になり教育費が終了し少し生活費が楽になったことで、脱サラし軽貨物ドライバーとして自由な働き方を求めて人生をシフトした。
妻もパートで働き生活を支援しているが、体が弱く長時間労働が困難なため会社の社会保険には加入していない。

「元気なうちに会社員以上にバリバリ稼げばいいだろう」と、老後のことはあまり真剣に考えていなかった。
ところが個人事業主の国民年金と会社員の厚生年金では月額の受給額に相当な差があることをYouTubeで知る。

そしてここ数年の夏の酷暑は浩一の身体を確実に蝕んでいた。
最近急激に感じる体力低下は気候の変動と荷量・労働時間の増加に耐えられないのでは?
国民保険では万一の疾病やケガの時の保障が弱すぎる・・・

「このままじゃ、肉体労働は不安だな…」

浩一は50代半ばに急に弱気になり、またまた自分の考え方の浅はかさを悔やむ。
自分に残された働ける時間など大したことないではないか。
むしろ年金生活時間の方が長いし大事ではないか。
将来のことを考えると、憂鬱な気持ちになった。

運送の仕事するならこのぐらいのガソリン代が限度だよ!

最後の決断

夏に無理しすぎて疲労感が抜けないある日のこと、浩一は体調を崩してしまい数日間仕事を休まざるを得なくなった。
40代に通用していた無理は50代半ばにはもう通用しない。
その間は収入が途絶え、家計は一気に苦しくなった。

自信が過信であったことに気付いた瞬間であった。
浩一は、この仕事・個人事業主がいかに自分にとってリスクの高いものかを痛感した。

「もう、限界だ…」

浩一は決意を固めた。
そして妻に相談し、個人事業主を廃業することを決めた。
個人事業主として7年ほどしか経っていないが、このままズルズルと続けていることの先に破滅が訪れることに気付いたのだった。

これからは自分が無理するのではなくAIを使う側になればいい

廃業後の生活

個人事業主を廃業した後、浩一はしばらくの間はバイトで食いつないでいた。
車両は処分し車の維持費が無くなったことで、生活は恐れていたほど落ち込まなかった。
いかに車を使う仕事がリスクが大きいかをようやく理解できたのだった。

妻の励ましもあり、少しずつ気力と体力が回復し自分の立ち位置を再確認することができてきた。
浩一は長く働けることを重視し、家の近くで企画立案と活動をサポートする福祉系の仕事にパートとして働くことになった。

個人事業主のような働き方ではないが、経費が全くかからないため手元に残る額は心配したほど変わらない。
何より安定した収入を得ることができ、社会保険に加入したことで厚生年金・健康保険の恩恵が受けられ、将来の不安が少し取り除かれ心が楽になった。

残業も無く時間に追われることもなくなり生活リズムが整い、完全空調の室内で暑い寒いに苦労することも無く、心身のストレスが軽減されることがこんなに幸福感を得られるなんて思わなかった。
「稼ぎたい」とか「自由に働きたい」とか、理想を言うのは簡単だけど、身の丈を知らないとどこかに破綻をきたし取り返しのつかないことになる。
まるで冒頭の企業みたいに・・・

個人事業主として頑張っても、最後は年金で人生が逆転する

結論

浩一のケースは、軽貨物ドライバーが抱える問題の一端を物語っています。
運送業の人手不足によるしわ寄せは末端労働者のドライバーに重くのしかかること。
労働とストレスに見合っていないコスパ・ダイパの悪さに我慢を続けるだけ。
燃料費高騰、インボイス制度、社会保険の不利など、多くのマイナス要因が複合的に作用して個人事業主の経営を圧迫している。

これらを理解しているのかいないのか?
ユーチューバーになりたいから手っ取り早く軽貨物ドライバーになるような人ほど、どちらも上手くいかずに撤退している。

軽貨物ドライバーの在り方は、もっと「質」を求めていくべきではないのか?
どうも「働き方」「稼ぎ方」「自由のあり方」がどれも中途半端というか、このままでは長く続けられない仕事として定着しそうな気がします。

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