不労所得?「水屋」の功罪

他人を動かし上がりから搾取する理想の(?)ビジネス

桜も咲かぬうちに新年度が始まりました。
ここ1年ほど識者も交えて毎日のようにマスコミを賑わせてきた2024年問題について、業界内では解決に繋がるような妙案も出ぬまま手探りでのスタートとなっています。
大手運送会社は4月1日より運賃値上げを強行しましたが、中小レベルでは運賃値上げどころではなくドライバーの処遇改善すらままならない。
人材の流出も加速する一方で物流サービスを維持することも困難を極めている。
特に荷物より人を運ぶ方の業態に悲鳴があがっています。

直近で厚生労働省が公表した2023年の大型ドライバーの年間収入は485万円(前年比1.6%増)と意外に健闘していた?(そんな実感がある人はどれだけいるのだろう)。
しかし他業種の方は更にそれを上回り全職種平均(507万円/前年比2.1%増)となり、運送業との格差はむしろ広がっている。
そして業界の人手不足の大きな原因となっている他業種より1割安い年収と2割長い労働時間という実態が依然として改善されていない。
事故や身体を壊すリスクを背負って低賃金長時間労働を受け入れようとはイマドキの若者の職業、いや中高年の転職先候補にすら引っ掛からない。

令和3年のトラックドライバーの労働環境資料より

ドライバーの労働時間についての直近の公表では、大型ドライバーで0.9%減(2544時間)、中小型ドライバーで0.5%減(2508時間)なのだと。
2024年問題の直前になっても前年比1%減すら達成できない惨憺たる有様。
全職種平均(2136時間)をいまだ2割近く上回っている情けない状況。
5年間の猶予期間があったにもかかわらず、本気で改善・改革する気があるのか?と問われても仕方がないでしょうね。

今後は残業規制により長時間労働は多少マシになっていく(はず?)でしょうけれど、これだけ長時間働いても「残業が削られたら生活できねぇ!」って、そういう働き方に洗脳されてしまったドライバーが多いことに深い闇を感じずにはいられない。
宅配仕事も低単価をどれだけ数こなすかということが常態化し慣らされてしまって、個人事業主としての業務委託契約上で対等の立場で働いているという根本的な部分がどこかに消し去られてはいまいか?

他業種と比較しても運送業の評価の低いことがわかる

全日本トラック協会(全ト協)が先月公表した「多重下請構造のあり方に関する提言」について様々な反響が起きている。
全ト協っていったい何をやっている団体なの?とか、単なる天下り先として設けられた組織じゃねーの?とか、運送物流の世界が一向に良くならないことを論じられる時にその存在意義についてやり玉に挙げられることで有名ですね。
さすがに2024年問題がクローズアップされてきたここ数年では、一応仕事してる旨のいくつかの活動報告や提案らしき発言も見受けられるようになってきた。
それらが業界の問題に有効に働いているかどうかは2024年問題が解決に向かっていないことで想像できる。

その全ト協の「多重下請構造のあり方に関する提言」の中で、興味を惹いたのが「下請けは2次まで」とする制限についての内容。
昔からみんなが問題視していたことを何を今さら言いだしているのだ?
運送の世界では多層構造が問題視されていて、中間搾取する業者が多く存在することが下層の労働者の低賃金の原因の一つとも言われている。
委託の軽貨物ドライバーなどは最下層の代表的な働き方でしょう。
いつも言っているが散々中抜きされた残りカスで数を競わされて働かされている状態。もう5次6次といった一般的な感覚ではあり得ない位置付けなのです。

2次請けまでの構造。水屋は重要なポジションにいる

確かに全ト協が指摘するように車両も保有せず荷物すら見ないで取次ぎだけしているような「水屋」と呼ばれる業態が存在している。
それでも営業力の無い単なる「運び屋」的な運送会社をマッチングさせて物流を回しているという面では、無くなっては困るとも言える。
大体彼らのポジションは1次か2次という上流に位置する。
全ト協は「下請けは2次まで」と公言したことから「水屋」の存在を否定していないことがわかりますね。
要は変にコソコソしないで適正な手数料でやってくださいねと言うことか。

結局は多くの運送会社が営業力もないままに、まるで親鳥が餌を運んできてくれるのをヒナが口を開けて待っているような状況に甘んじているから、中間搾取されても文句も言えない。
じゃあ「水屋」を排除したら完全に自分たちの営業力だけで適正な運賃と労働を守れるか?と言ったら、まず無理だよなぁ。
だから全ト協の提言も「下請けは2次まで」という曖昧なもので「水屋」の存在を否定していない。
結局生き残るのは上流に位置するスケールメリットのある運送会社とやり手な「水屋」に絞られてしまうのか。
だから搾取されまくっても仕事があるだけマシみたいな下層に位置する弱者にとっては、現状が変わることを恐れてもいる。

搾取されても仕方がない程度の働き方しかしてないの?

問題の本質は下請け云々より、適正運賃を決めるなり協会に加盟するメリットなりを明確にすべきではないのか?
会費を献納して協会に加盟しても政府に対して何の権限もないし自分たちを守ってくれるでもないなら何のための組織なのか?
いろいろな提言をするのも協会の重要な仕事なのだろうが、それがどこまで業界をよくできるのだろうかが問われている。
まさに「言うは易し行うは難し」。
有名無実化した存在であってはならない・・・

運送業という大きな括りではなく、軽貨物運送業という1ジャンルだけでみても「水屋」が存在する場合がある。
10年以上前であれば「元請け」という名称で「水屋」的存在は普通に有った。
何らかの繋がりで大手運送会社にくっついて軽貨物ドライバーを集めるポジションにあり、普通に求人情報で多数出ていましたよね。
合同会社や合名会社と言った簡易に設立できる法人形態が多く、やっていることはまさに「水屋」。
自分の下に複数の軽貨物ドライバーを置いて売上から10%~20%ほどの中抜きをする。時と場合によっては自らドライバーもやる。

やりがいで誘い込み人生詰んだ状態で働かされている

当時は多くの軽貨物ドライバーがゆくゆくは自分も下に軽ドライバーを従えて「殿様商売をしたい」などと夢見ていたものです。
私も不労所得の一つの形態として「元請け」というスタイルはありかな、と思っていたこともあった。
しかし現実はそう甘いものではなく、元請けは自分が連れてきた軽ドライバーについての責任を全て負うことになる。
例えば誤配でもしようものなら当人と一緒に謝罪に行ったりペナルティを被ったりすることもある。
急に軽ドライバーが休む時などは自分が代走したり、代わりの軽ドライバーを手配したりすることも。

そういう姿を私も目の前で見ていたので「元請け」になりたいという妄想はいつしか消え失せた。
いくら中間搾取が可能であっても不労所得というには程遠い。
ましてやどこの馬の骨かわからない運送初心者レベルの連中の責任を全て背負うというのは、自分で走らなくてもストレスが多い。
いや、自分で走らないからこそのストレスは結構キツい。

一般的に「水屋」というのは楽に儲けているイメージがあるかもしれないが、他人の誤配や事故った時の処理をしている元請けの姿を目の当たりに見てきたので、実際は手配先が一つしくじれば自分も地獄に落ちる可能性もある怖さは第三者にはわからないかも。
まあ百戦錬磨の「水屋」なら責任転嫁の方法もいろいろ持っているとは思うが。

運送の世界の責任は事故にせよ何にせよ、財も将来も一瞬で失う可能性がある。
どんな荷物よりも重~いのです。

 

 

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