肉体労働者の危険性
ここ数か月、急にバスやタクシー事業に関する暗いニュースが増えてきたと思いませんか?
人手不足によるバスの路線の減便や廃止。ローカルのタクシー事業も運転手不足で廃業とか。
そこで国が思いついたのが運転手の運転年齢上限を80歳まで引き上げるとか、外国人運転手を積極的採用し人手不足を解消するとか。
人の命を預かる仕事なのに不安ばかり募るアイデアしか出てこない。
自分の命を80歳近いドライバーや異国のドライバーに預けたいですか?
物流の2024年問題では主にトラックに関するものが多く報じられてきましたが、バスやタクシーも運送業なのですよね。
いずれも共通しているのは低賃金・長時間労働・人手不足というお決まりの3点セット。
法の施行まで改善・解決のため5年の猶予をもらいながら、ギリギリになってギブアップする事業者が続出してきたということか。
問題が噴出してきても国が考える対策が上記のような体たらく。
高速道路上のトラックの上限速度を100kmにして目的地に早く到着させれば労働時間の短縮になるだろうと本気で考えているようだが、問題の本質はそこではない。
目的地に早く到着しようがそこで発生する積み下ろし待ち時間の問題が解消しなければ早く到着するだけ待機時間が増えるだけ。
結局ドライバーの健康とか周囲に与える危険性の増大とかをわかっていない。
5年間の猶予期間中では「コロナ」という想定外の社会的問題が発生しましたが、人の流れや荷物の流れが大きく滞ったおかげで長時間労働・人手不足という問題が一時的に回避できた。
ただし労働時間が減ったことでドライバーの収入も減り、退職者が増えてきたのもこの時期。
コロナ禍も落ち着きを見せ始め、ようやく経済が回り始め「さぁ、これから!」という時に肝心の労働力を失っている。
それが顕著になっていたのが物流や建築・建設業といった肉体系労働職。俗に言う「ガテン系」の職種。
ガテン系って仕事はキツイけどそこそこ稼げるというイメージってありましたよね?
ところがいつの間にやらキツイのはそのまま、同業同士の値引き合戦やらIT化を上手く取り入れそれまでの業界の体質から脱却できた効率化の進んだ事業者がそこそこ美味しい仕事を搔っ攫うなど、負け組ばかりで利の薄い仕事を請けていれば従業員に満足な報酬も払えず、やがて人は逃げていくし新たに人も入ってこない。
おまけに命を失うリスクというのはガテン系のイメージにすらなっている。
つい先日も東京駅の真ん前のビル建設現場で痛ましい事故が起きましたよね。
亡くなられたのが30代と40代という、まさに知識・体力とも油の乗り切った働き盛り。
ただでさえ人手不足の建築建設業で、この年代の人材を失うというのは痛恨の極みでしょう。
亡くなられた方々は現場仕事では命綱ともいえるハーネスをしっかり装着していたと。
ところがそのハーネスの固定先である鉄骨ごと落下したから命綱の意味も無い。
鉄骨の重量は15トンで周辺の鉄骨も一緒に崩壊・落下。鉄骨の総重量は48トンにもなるという。
安全に絶対は無い。いつでもどこでも起こりうる事故の怖さを改めて知らされましたね。
いくらマニュアルに従順で準備万端にしていても、重大事故というのは個人の想定を超えたところで起きてしまう。
こんなリスクを背負っても高報酬とは言えない条件で働かねばならないのは、誇りのために喜んで働くのか?生活苦のために何も考えずに働かされてしまうのか?
トラックもまだ積雪も路面凍結も無いのにあちらこちらで横転しているし。
どうしても大型車は交差点での巻き込み事故や追突事故が無くならないし。
リフト作業中に資材の下敷きになって亡くなられた方もいらっしゃるし、ホーム上や荷台からの転落事故も無くならない。
ガテン系における命に関わる事故リスクは、いろいろ事例を見聞きしているのに減るどころか年々増える傾向にある。
そこで厚生労働省のサイトから労働災害発生状況を参考にしてみたい。
- 【令和3年労働災害発生状況の概要】
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- 1死亡者数 ※1
- 死亡者数は867人と、平成30年から令和2年までの3年間には13次防の目標の達成が可能となるペースでの減少となっていたものが一転して13次防の目標を達成できなかった。
- 13次防の重点業種では、建設業が288人(前年比30人・11.6%増、29年比35人・10.8%減)、製造業が137人(同1人・0.7%増、同23人・14.4%減)、林業が30人(同6人・16.7%減、同10人・25.0%減)となった。
- 2死傷者数 ※2
- 13次防の重点業種では、陸上貨物運送事業が16,732人(前年比917人・5.8%増、29年比2,026人・13.8%増)、小売業が16,860人(同1,519人・9.9%増、同2,979人・21.5%増)、社会福祉施設が18,421人(同5,154人・38.8%増、同9,683人・110.8%増)、飲食店が5,095人(同142人・2.9%増、同374人7.9%増)と前年比で増加した。
- 事故の型別では、新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害を除くと、特に死傷者数が最多の「転倒」(前年比2,743人・8.9%増、29年比5,362人・18.9%増)、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」(同1,656人・8.7%増、同4,600人28.4%増)で大きく増加した。
- 年齢別では、60歳以上が全死傷者数の約4分の1を占め、38,574人(前年比3,646人・10.4%増、29年比8,547人・28.5%増)となった。
- 3業種別の労働災害発生状況
- 製造業の死亡者数は、前年比で1人(0.7%)増加し、事故の型別では、機械等による「はさまれ・巻き込まれ」と「墜落・転落」が多くを占めている。
- 建設業の死亡者数は、平成29年以降減少傾向にあったが、前年比で30人(11.6%)増と大きく増加した。事故の型別では、「墜落・転落」が最も多く、「交通事故(道路)」(前年比12人・32.4%減、29年比25人・50%減)で減少した。
- 林業の死亡者数は、事故の型別では、最多である「激突され」(前年比1人・7.1%増、29年比6人・28.6%減)が前年比で増加したが、「墜落・転落」(同4人・44.4%減、同2人・66.7%増)等が前年比で減少した。
- 陸上貨物運送事業の死傷者数は、事故の型別では、「墜落・転落」が4,496人と最多で、「動作の反動・無理な動作」(同250人・9.1%増、29年比781人・35.5%増)及び「転倒」(209人・8.0%増、29年比573人・25.6%増)で増加した。
- 小売業、社会福祉施設及び飲食店の死傷者数は、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除くと、いずれの業種も事故の型別では、「転倒」が全数の約3割前後を占め、多い。
- ※1死亡災害報告をもとに、死亡者数を集計。
- ※2事業者から提出される労働者死傷病報告書をもとに、休業4日以上の死傷者数を集計。
なお、これらの件数に通勤中に発生した災害の件数は含まない。 - ※31年間の労働者1,000人当たりに発生した死傷者数の割合。
1年間の休業4日以上の死傷者数/1年間の平均労働者数 ×1,000 で算出。
- 1死亡者数 ※1
(厚生労働省 令和3年の労働災害発生状況より引用)
結局十分な利が確保できないのに無理な人員・計画で事業を回すことが事故を招いているのではないか?
特にガテン系のように中抜きが何社も入り、多層構造になるがゆえに末端にいくほど低品質な業者で仕事を回すことが事故に繋がっていると思うのです。
バスやタクシーのように消費者に近い仕事でも利益が取れず人手不足に陥るというのは、もはや日本の経済構造が立ちいかなくなっていることを考えないといけない。
これらを鑑みて、これから加齢していく中で自分は果たして安全なのだろうか?労働対価はどうなのだろうか?とかしっかり分析してみると、今まで見えていなかったものが見えて来るかもですよ。