残業規制と副業奨励の矛盾
世間を騒がせてきた運送業界の2024年問題。
2024年4月1日より自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限され、違反に対する罰則は「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」とされています。
散々大騒ぎしてきた割には罰則が軽く思えてしまうのは私だけでしょうか?
これでは罰則覚悟で違法を繰り返す悪徳業者が出てきてもおかしくない。
それより年間の時間外労働の上限が960時間に制限って・・・
今まではいったいどんだけ働かせていたのだ?
新規制の月平均80時間の残業だって普通のサラリーマンにとっては苦痛に感じる人の方が多かろうに。
週休二日制の会社なら週20時間、1日4時間は普通に残業させてもブラックではないと。
まあこれはあくまでも運送業という特殊な世界の緩い(?)規制内容ではあるが、朝から晩まで時間と事故リスクに縛られ気を張りっぱなしなトラックドライバーは、それでもこんな残業規制に文句を言う。
「残業を強制的に減らされたら生活出来ねぇ!」と。
普通の労働者の感覚とだいぶかけ離れた世界で生きていらっしゃる。
もともと長時間労働ありきの働き方であるから、単に法規制で時間制限を課してしまえばそりゃあ現場は混乱する。
定時にキッチリ上がれるような仕事内容ではないし、トラックドライバーだって好きで残業しているわけではない。
しかし残業代がつくから長時間労働になっても基本給が安くても我慢して働ける。
その残業代がカットされるとなると・・・
従業員の収入云々より運送会社が仕事が回らなくなるのが怖い。
特に長距離をメインで運行している形態では、ドライバー一人では請けられなくなる仕事が出てくるでしょう。
1行程2人以上で労働時間を分散するか、営業エリアを縮小するか。
いずれにせよこれまでの売上は大幅に落ちこまざるを得ないし、残業代どころか従業員を削って会社の延命を図るか。
残業代は期待できない、賞与すら無くなりそう、会社自体が危うい、となればドライバーが逃げ出すのは当然。
いや、それでも現状にしがみ付くだけで文句ばかり言って身の振り方を真剣に考えないドライバーが多いのが不思議。
目の前の仕事が未来永劫続くと思っているなら、情弱なのか世間知らずなのか・・・
そもそも何で時間外労働の規制をするかと言えば、まあ根底にあるのは働き方改革関連法案にある。
労働者の多様で柔軟な働き方を実現できることを目的として、特に時間による拘束にメスを入れることで精神的・肉体的な重圧から解放し、前向きに仕事に取り組める環境を整備しようと。
それで収入が変わらず労働時間が目に見えて減るのであれば、誰も反対などする人はいなかったでしょう。
ところが日本社会の現状はというと、生産性が低く自然と労働時間を増やす方向で何とか売上を確保するような歪んだ仕組みが多くを占めている。
そんなところへ上っ面だけ見栄えの良い働き方改革などを導入しようとしても、長時間労働でしか売上を作れない体質はちょっとやそっとでは改善はできない。
むしろ時間を削られることで更に生産性は低くなり、会社は衰退し非正規労働者は路頭に迷うことになる。
そんな労働時間を短くするような方向へ導こうとしている国であるが、一方ではこれまでタブーとされていた「副業」を奨励するということへも誘導しようとしている。
副業を推奨する理由としては、「終身雇用制度の崩壊」「退職金の撤廃」「年金制度の実質的な破綻」という、高齢化社会に向けてもう企業や国は面倒見れません!と堂々と白旗を掲げてしまったから。
後は自分たちで老後の貯えを築いてね!ということ。
もう30年間も実質賃金は増えておらず生産性の低い古い慣習や変な常識を引きずっているこの国では、今後も人口が減少を続ける状況においては国策も尽きようとしている。
そこで国民に手を差し伸べるかわりに遠くから音頭をとって声援を送りますよという責任放棄の態度を露骨に取るようになった。
その一つが「副業の奨励」です。
今までは副業を禁止していたのが当たり前だったのが、急に手のひらを返すようにルールを緩める会社が多くなった。
それは国や経団連が従業員より企業を救う方向で考えが一致したのではないかと。
「もう終身雇用やら退職金やら無くしてもよいから法人税だけは何とか捻出してね」とエールを送る一方で、その代わりに従業員には副業を認めてあげて欲しいと。
従業員が給料に依存することなく自分で稼げるようになれば、昇給や社会保険折半の負担も軽減できると企業に入れ知恵をしたとかしないとか。
だから副業するための時間を作り体力を温存させるために残業時間規制を設けることになったと考えれば合点がいく。
そもそも残業時間を削ろうとする(そんなに働くなよ)動きと副業を奨励する(もっと稼いでいいよ)動きは相反するものであるが、結局低賃金で苦労している者が国の掌で踊らされている構図。
副業は本業以外の時間で成り立つものですから、どうしても収入のために捧げる時間は本業+副業で多くなってしまう。
下手すれば単に残業だけやっていた方が総労働時間は少なく収入は多くなっていたのでは?
労働者の健康を気遣っての残業時間規制ではなかったのか?
残業を削られ収入を削られ、トラックドライバーの方々はどうするのか?
ドライバー職というのは副業と相性が悪いと言えましょう。
運転中はスマホも見ることも許されず、運転してなくても手積み手降ろしとかでスマホを操る余裕などなさそうです。
一般的な会社員が通勤中や休憩時間中にできることとトラックドライバー(通勤は車かバイクが多い)ができることはかなり違う。
運転の気疲れは相当なもので、30分ほどの休憩時でもカーテン閉めて睡眠確保で寝ている人多いですよね。
特に眼精疲労は運転リスクが高まるのでスマホで副業なんてちょっとやろうとは思えないかなぁ。
それでもこれからは残業時間が削られれば嫌でも副業を始める人も増えていくのではないだろうか?
スマホやパソコンの副業というより労働系アルバイトの方が手っ取り早いし確実かな。
もしかしたら運送業より時給換算で稼げたりして。
そうなった時に本業をどう考えるのだろうか?そこで気付くだろうか?
「俺の仕事ってアルバイトより安かったのか・・・」
実際トラックドライバーの基本給ってアルバイトと大して変わらないかもしれない。
基本給が12万~15万という人、少なくないですから。
これにいろいろな手当や残業代が乗っかってようやく手取りで25万前後になってくる。
残業代が収入の2割ぐらいを占めているケースだと、年収も2割近く減らされたらただでさえ低賃金ですからギャーギャー騒ぐのもわかりますよね。
残業の減収分を副業で補うとすれば、やはり残業時間規制と副業時間はリンクして相殺されてしまいそう。
残業代減ったよどーする?副業どーする?という頭打ちの土俵の中で論議するより、収入だけ考えるならいっそのこと職を変えるというのもありなような気がする。
いや、そのぐらい劇的なことやらないと何も解決しないような・・・
もちろんリスクも取らなきゃ前に進みませんけどね。
何が現在の一番の問題なのかを整理してみましょう。
本当にその問題を解決したいのであれば、今の働き方から離れた自分を想像してみるのもよいのではないでしょうか?